早期のマルチプロダクト化に向けた伴走、アルプの更なる飛躍を支援

PORTFOLIO

SaaS「冬の時代」とも言われ、スタートアップをめぐる資金調達は厳しさを増している。しかし、そんな中でも、成長の芽を見つけ、着実に資金調達をするスタートアップもある。アルプはそんなスタートアップの代表格だ。

2023年2月にUB Ventures(以下、UBV)がリードとなって4.1億円を調達したアルプは、サブスクに特化した販売・請求管理システム「Scalebase」(https://scalebase.com/)を手がける。創業初期からUBVと関わりがあり、満を持して、投資家と起業家という関係になった。

これまでの関係構築と、これからの成長戦略について、UBV代表の岩澤脩とアルプ代表の伊藤浩樹氏が語る。

シリーズAエクステンションラウンドで4.1億円の調達を実施

──アルプが現在、どのような状況にあるか、まずはビジネスの概況を教えてください。

アルプ伊藤:アルプはサブスクに特化した販売・請求管理システム「Scalebase」を手がけています。2018年に会社を設立し、現在では同製品を100社以上に導入していただいています。

資金調達としては、2022年2月にシリーズAラウンドとして12.5億円の調達を発表しましたが、今後の事業成長を加速させることを考え、エクステンションラウンドで新たな資金調達を模索していました。

そのような中、2023年2月、UBVをリードして4.1億円の資金調達を実施しました。

UBV岩澤:アルプ創業初期の、プロダクト構想段階から伊藤さんとお話をしていましたが、非常に難易度の高いプロダクトだなと感じていました。

しかし、この3年間でじっくりとプロダクトを作り込み、スタートアップだけでなく大企業にまで評価されるプロダクトに成長させたのは流石です。

UBVとしても、アルプがさらに事業成長していくこの機会にご一緒できてとても光栄です。

──お二人の関係は3年以上前からだったのですね。

UBV岩澤:UBVでは、起業家のためのソーシャルクラブ「Thinka」を2019年から運営しています。伊藤さんは、その第1期生として参加していただきました。

アルプ伊藤:当時、UBVが起業家のコミュニティを立ち上げると聞いて、迷わず参加しました。先行する様々な成長企業のリアルな出来事を岩澤さんやほかのユーザベースの方、また著名な外部ゲストに直接聞けるまたとない機会ですから。

月に1、2回程度の頻度、クローズドでの勉強会が開催されていました。この場は多くのシード期SaaSスタートアップにとって現場の状況を学ぶ機会になりました。

アルプ株式会社 代表取締役 伊藤 浩樹
東京大学法学部卒業後、モルガンスタンレー、ボストンコンサルティンググループを経て、2013年にピクシブ株式会社に入社。ピクシブでは新規事業開発、開発組織のマネジメントを経て、17年に代表取締役社長兼CEOに就任。18年8月にアルプ株式会社を設立。

UBV岩澤:伊藤さんはイベントへの出席率も高く、毎回、質の高い質問をされるのが非常に印象的でした。「ここで学んでやろう」「ただでは帰らない」という気迫を感じ、ほかの参加起業家にとってもいい刺激を与えていただいていたと思います。

アルプ伊藤:多くのスタートアップ系の記事や動画コンテンツでは、事業を成功するために必要な人材やプロダクトについて語られていますが、Thinkaでは変にろ過・編集されていない、より生々しい話を聞けました。

また、クローズドな場であるからこそ、スタートアップ同士がお互いの悩みや近況をシェアし合うことができたのも、創業間もなかった私にはありがたい場でした。

UBVの知見が最も活きる時期に投資を決意

──それでも、UBVがすぐにアルプに投資することはなかったのですね。どのような経緯で投資が決まったのでしょうか。

UBV岩澤:伊藤さんと最初に出会った頃から、投資させてほしいという話はしていましたね。ただ、最初のうちは事業の話はしても、具体的な投資の話にまでは進みませんでした。

アルプ伊藤:2021年末くらいに岩澤さんと久々にお話をする機会があり、近況をお伝えすると、岩澤さんから、改めて資金調達のタイミングがあれば支援したいと言っていただいたのを覚えています。しかし、その時はまだエクステンションラウンドを実施するとは決めてもおらず、話は流れてしまいました。

その後、弊社としても色々な状況の変化があり、2022年3月にこちらから岩澤さんにお声がけし、今回の資金調達に繋がっています。

──UBVはシードからアーリーステージで投資することが多いです。このタイミングでアルプに投資したのはなぜですか。

UBV岩澤:シード〜アーリーへのこだわりというよりは、自分たちの経験や知識が起業家にとって一番役に立つタイミングで支援させていただきたいと考えています。

アルプの「Scalebase」はプロダクトの専門性が非常に高いため、正直なところ、これまでの3年間で我々が貢献できることは限定的だったでしょう。

UB Ventures 代表取締役 マネージング・パートナー 岩澤 脩
慶應義塾大学理工学研究科修了後、リーマン・ブラザーズ証券、バークレイズ・キャピタル証券株式調査部にて 企業・産業調査業務に従事。その後、野村総合研究所での、M&Aアドバイザリー、事業再生計画立案・実行支援業務を経て、2011年からユーザベースに参画。執行役員としてSPEEDAの事業開発を担当後、2013年から香港に拠点を移し、アジア事業の立ち上げに従事。アジア事業統括 執行役員を歴任後、日本に帰国。2018年2月にUB Venturesを設立し、代表取締役に就任。

一方で、2022年3月頃にお声がけをいただいた頃は、プロダクトがローンチし、PMF(Product Market Fit)が後期に入り、GTM(Go to Market)に移行するタイミング。私がSPEEDAで培ってきた体系的な知見が活きやすいフェーズになってきたなと感じました。客観的に見ても、この時期がベストタイミングだったのではないかと考えています。

アルプ伊藤:岩澤さんからは、投資だけでなく、SaaSに関するさまざまな事業を手がけられてきた経験があるからこそ、かなりリアリティを伴ったフィードバックをいただいています。

岩澤さんは、「Scalebase」というプロダクトについて、顧客がどこで困るのか、またどういうものが欲しくなるのか、など業務シーンや顧客の姿を具体的に想定して議論をしてくれる投資家です。リアリティのある意見をいただけるので、事業をどう進めるかといった実践的な課題に対しては最適なディスカッションパートナーですね。

──投資家と起業家という関係になると、コミュニケーションの質なども以前とは変わるのではないですか?

アルプ伊藤:以前は半年に1回程度しかお話する機会がありませんでしたが、投資していただくことが決まった2022年の末頃から密に連携するようになりました。

UBV岩澤:これまでは、ある意味友人として、同じ目線でディスカッションしてきたところがありましたが、今は株主という立場になりアルプの経営と事業を自分事として捉えるように心がけています。
今までも、もちろん無責任な発言をしていた訳ではありませんが、自分の発言が株主の意見として、より事業に直結するようになったので、緊張感を持ちながら日々意見交換をさせていただいています。

アルプ伊藤:岩澤さんとのディスカッションは、過度に準備をして緊張感を持って臨むような形ではなく、対等な立場でテンポよくお話できる点が助かっていますね。Thinka時代からの関係性もあると思いますが、投資いただいてからも大きく変わっていません。

早期マルチプロダクト化でないと生き残れない時代に

──今回の資金調達で、事業をより加速させていくフェーズになります。PMFからGTMという話もありましたが、どんな成長をめざしていますか。

アルプ伊藤:これまでは、「Scalebase」という1つのプロダクトのことだけを考え、どう機能を拡張していくのか、どうマーケットを広げていくのかにフォーカスして事業を進めてきました。

一方で、我々が今後視野に入れているのは、複雑な料金計算や販売請求の管理、決済、ファクタリングなど、お金にまつわるかなり広い領域です。販売・請求・決済において、あらゆる企業が前進できる環境を創ることを目標としています。

そのため、「Scalebase」のプロダクトとしての機能提供に留まらず、新プロダクトの開発・販売など、目標達成のために複数事業を展開していくことが大事だと考えています。

UBV岩澤:現在は、SaaS業界自体が大きく変化しているタイミングです。私がユーザベースでSPEEDA事業を手掛けていた10年前と今の一番の違いは、第二、第三のプロダクトを以前より早期に立ち上げる必要があるということです。国内をターゲットとしたシングルプロダクトだけでは成長の限界に直面するということが明確になりつつあります。

今は、社員が20人、30人の段階で、新たなプロダクトを2つくらい立ち上げなければなりません。より早くからプロダクトの仕込み、採用と体制作り、ステークホルダーとのコミュニケーションが必要で、私がやっていた時よりも、経営の難易度は上がっていると思います。

そこで重要になってくるのが、既存の事業の強度を落とさず、新しい挑戦に立ち向かえるかということ。もっと言うと、既存事業を支えるメンバーのモチベーションコントロールや既存事業が停滞した時に新規事業のリソースとのバランスをどうするのかなど、繊細な舵取りも求められるようになってきます。

アルプ伊藤:日本のSaaS市場での戦い方を考えると、マルチプロダクト、ないしは1つのプロダクトに複数のモジュールを載せていくような、複層的な価値提供を念頭に、スケールを考えるべきだと思います。

特に、我々のような複雑な業務システムの場合、1つのプロダクトでエンタープライズも含めたすべての企業に刺さるように価値を提供することはなかなか困難です。今後はより戦略的にチームをつくっていく必要があると考えています。

アルプには、「請求する側のあらゆるオペレーションを解決したい」という目標があります。現在、法人カードや請求書受領サービスなど、支払側のプラットフォーム化が一気に進んでいますが、請求側はまだまだ大きな余地があると感じています。そこで、アルプが請求側のプラットフォームを一手に担えれば、私にとっては理想的ですね。

CRMとERPを融合した新しい市場を創出する

──UBVとしては、アルプがどんな存在になると期待していますか。

UBV岩澤:アルプが挑戦している領域は、CRMとERPの重なる領域です。この領域は市場規模が大きいのは明らかなのですが、業務フローの個別性が高く、労働集約的でもあるのでスタートアップは誰も手をつけてこなかったところです。

みなさんがイメージする業務用ソフトウェアはほとんどCRMとERPです。その谷間にある販売・請求管理は、CRMとERP、それぞれの市場を半分ずつくらい食って新しい市場に発展する可能性があると見ています。請求だったり、入金の消し込みだったり、場合によっては、ファクタリングの領域へと融合していくと予想しています。

アルプにはその新しい市場を創出するリーディングプレーヤーになって欲しいと思っています。

サブスク(月額課金)の進化により、フィンテックとSaaSの融合、ハード機器とSaaSの融合など、あらゆる業界において、売り方が複雑になっています。それに伴い、販売・請求管理も複雑化し、既存のシステムでは対応しきれなくなっている。今後は、スタートアップだけでなく、日本の大企業においても、販売・請求管理におけるペインが見えてくるはずです。

市場があると分かっているのに誰も手をつけてこなかった販売・請求管理領域。特にスタートアップには難易度の高い領域にアルプはセンターピンを置いた。この地の利を活かして、新たな市場を開拓していってほしいです。

現在のプロダクトであるScalebaseの成長支援はもちろん、次なるプロダクトを一緒につくり、市場に投入するところにこそ、伴走していきたいと思っています。


編集:久川 桃子 | UB Ventures エディトリアル・パートナー
撮影:小池 大介
2023.02.20