【解説】SaaS事業における利用規約作成のポイント

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「SaaS事業の利用規約を作成する際に気を付けるべきポイントは何ですか?」
新規サービスを立ち上げようとしている事業者・起業家と話をしている際、上記のような質問をよく受けます。

利用規約は事業者と多数のユーザーの契約内容そのものですので、事業の将来に大きく影響を与える重要なものであることは言うまでもありません。
しかし、多くの場合、利用規約を作成するタイミングはサービスの正式ローンチ前であり、作成時点では事業者自身がユーザーとの付き合い方やサービスの運用方針等について具体的なイメージを持てていないことが多いため、その点で捉えどころのない難しさを感じる事業者が多いようです。
また、SaaS事業の場合、ローンチ後もサービス内容を柔軟に改善(変更)していくケースがほとんどであるため、流動的なサービス設計の中でどのような利用規約にするかという点も悩ましいポイントになります。

本記事では、ユーザベースグループのSaaS事業のリーガル面を担当した経験をもとに、主に企業向け(BtoB)のSaaSサービスの立上げを考えている事業者向けに、利用規約を作成する際のポイントを以下のトピックの順で解説していきます。

  1. 利用規約に関する3つの前提知識
  2. 利用規約を作成する際の4つの準備
  3. 一般的な利用規約の条項例
  4. SaaS事業の利用規約を作成する際の4つのポイント
  5. SaaS事業の利用規約の運用上の3つのポイント

付録 – 各条項の概要・留意点

1.利用規約に関する3つの前提知識

(1) 利用規約の役割 = 契約条件の明確化

利用規約の役割は、「事業者とユーザーの契約条件の明確化」です。
あらゆる取引において、法的紛争を避けスムーズな取引を実現するために契約の締結は必要不可欠ですが、SaaS事業を展開する場合、事業者とユーザーとの契約は個別に契約書を締結する形ではなく、画一的な利用規約の形で定めるのが一般的です。
法的効力という観点からは、利用規約も一般的な契約書と同じく法的拘束力を有するため、利用規約にどのような条件を盛り込むかは事業者にとって非常に重要です。

(2) 利用規約への同意の取得方法は?

ただ、万全の利用規約を作成したとしても、その内容が当然に事業者とユーザーとの間の契約内容になるわけではないため注意が必要です。
利用規約がユーザーとの関係で法的拘束力を持つようにするためには、ユーザーに対してサービス利用前に利用規約の内容を示した上、ユーザーから利用規約について同意を取得しておく必要があります。
ユーザーから同意を取得する方法としては、主に、「サービスのサイト上で『利用規約に同意する』といった表示にチェックしてもらう方法」と「利用規約に同意する旨を記載した申込書を書面等で提出してもらう方法」が考えられます。
通常、個人向け(BtoC)SaaSの場合にはサイト上で利用規約への同意にチェックしてもらう方法が採られる反面、企業向け(BtoB)SaaSの場合には申込書を書面等で提出してもらう方法が採られることが多いです。
個人向けSaaSではユーザー自身が契約者になるためサイト上での同意取得という簡易な方法でも概ね問題が発生しないのに対し、企業向けSaaSでは、申込手続をしている従業員等が契約締結権限を持っているか否かが不明確なケースも多く、申込書の形で企業の申込意思等を明確にして契約締結を万全にする必要があることから、上記のように慎重な手続きが採用されています。
企業向けサービスを立ち上げる場合には、可能な限り「利用規約に同意する旨を記載した申込書を書面等で提出してもらう方法」を検討することをお勧めします。

(3) プライバシーポリシーやSLAとの違いは?

利用規約と似たものとして、「プライバシーポリシー」や「Service Level Agreement(SLA)」があります。
「プライバシーポリシー」は、事業者における個人情報の利用目的等について定めるものです。
個人情報保護法(第18条第1項)は、「個人情報取扱事業者は、個人情報を取得した場合は、あらかじめその利用目的を公表している場合を除き、速やかに、その利用目的を、本人に通知し、又は公表しなければならない。」としているところ、現在では、個別通知の方法ではなくプライバシーポリシーを作成してホームページ上で公表する方法が採られるのが一般的です。
「Service Level Agreement(SLA)」は、サービスの品質・レベルの具体的な基準を定めるもので、主に企業向けSaaSにおいて設定されることが多いです。
SaaSがユーザーにとって重要なものになればなるほど、ユーザー(企業)にとって当該SaaSのサービスレベルが自社の基準(セキュリティ基準や稼働要件等)を満たしているかが重要になるため、近年企業向けSaaS事業ではSLAを設定する必要性が高まってきています。
プライバシーポリシーとSLAは、利用規約の中に入れ込む形でまとめて規定することも可能ですが、通常は利用規約と別に作成した上、利用規約やサービスサイト上において引用(リンク)することが多いです。
特に、プライバシーポリシーは、サービスのユーザー以外の個人情報(同一事業者が運営する別サービスの利用者等)にも適用されうるため、利用規約とは別に定める必要性が高いです。

2.利用規約を作成する際の4つの準備

利用規約を作成する前の準備対応としては、以下の点が挙げられます。

(1) 自社サービスの内容を法的観点から正確に分析する

利用規約を作成する際の準備としてまず出発点となるのは、自社のサービス内容の正確な分析です。
一見似たようなサービス内容でもビジネススキームが異なると利用規約の内容が全く変わるケースが多々あるため、自社サービスの内容を法的観点から正確に分析しておく必要があります。
例えば、マッチング系サービスの場合、マッチングしたユーザー同士の取引について自社が商流の間に入る建付(受託・再委託方式)と、自社は商流に入らずマッチングのプラットフォーマーとしてのみ機能する建付(手数料方式)とが考えられるところ、いずれの建付を採るかにより利用規約の内容は全く異なるものになります。

(2) 競合他社・類似サービスの利用規約を検討する

これから立ち上げるサービスに競合他社や類似サービスが存在する場合には、それらのサービスの利用規約を分析し、自社サービスに応用できそうな条項がないか検討する方法が効果的です。
既存サービスの利用規約には過去のサービス提供の過程で得た経験を踏まえて練り込まれた箇所が多々あり、これらの知見をうまく応用することでサービスローンチ後のトラブルを予測して未然に防ぐことができます。ただし、競合他社や類似サービスの利用規約が参考になる場合であっても、条項をそのまま丸写しするのは避けるべきです。

(3) 事前にビジネスモデルの適法性検討を行った場合はその結果を規約に反映させる

これから立ち上げようとするサービスに競合他社や類似サービスが存在しない場合、当該サービスについて何らかの法的規制が課されている可能性が高いため、事業開始前にビジネスモデルの適法性検討をしておく必要があります。(また、類似サービスが存在する場合でも、FintechやLegaltech等のように事業特有の法規制が存在するジャンルでは適法性検討は欠かせません。)
上記のような適法性検討を行った場合には、その結果を利用規約に反映させることにより、当該サービスに内在する法的リスクを低減することができます。

(4) 想定されるユーザー層を意識する

利用規約作成の局面では軽視されがちですが、「想定されるユーザー層」を意識することも重要です。
例えば、想定ユーザー層が中小企業中心の場合と大手企業中心の場合では、利用規約において適切な文量、規定の詳細さ、どの程度事業者に有利にするかといった点で方向性が変わってきます。
企業向けSaaSでは想定ユーザー層が大手企業中心のケースが多いですが、大手企業は総じて中小企業よりもユーザーに不利な条項について修正要請してくる傾向が強いため、予めユーザーフレンドリーな利用規約に設定しておいた方がビジネス上のメリットが大きいことが多いです。

3.一般的な利用規約の条項例

SaaSの利用規約の内容は、サービスの内容やユーザー(企業向けか個人向けか)等により大きく変わりますが、一般的な条項例は以下の通りです。

上記の各条項の概要・留意点については 付録 – 各条項の概要・留意点 において解説していますので、詳細を確認したい方は参照して頂ければと思います。

4.SaaS事業の利用規約を作成する際の4つのポイント

SaaS事業は「ユーザー規模の拡大」「サービス内容の随時更新」といった特徴を有していることから、SaaS事業の利用規約では特に以下の点に留意する必要があります。

(1) 「バランス」の取れた規約設計にする

利用規約は事業者とユーザーとの契約関係を規定するものであるため、一般論としては利用規約の内容が事業者に有利であればあるほど事業者側の法的安定性は確保できます。
反面、ビジネス視点で見ると、SaaSビジネスにおいてはユーザー規模を拡大していくことが必須であるため、利用規約の内容がユーザーに厳しすぎるがゆえにユーザーからサービス導入を断られるような状況はできるだけ避ける必要があります。
また、仮にサービス導入拒否まで至らなくても、ユーザーから利用規約の一部について修正を求められた場合には事業者側において修正交渉対応が必要となったり、個別修正に応じた場合には締結後の規約管理が面倒になったりという問題も生じるため、可能な限りそのような事態を防止できるようにバランスの取れた規約を設計することが重要です。利用規約の内容の有利・不利のみではなく、ビジネス全体で見て最適となる規約を設計することがポイントになります。
ローンチ直後でユーザーへの訴求力が弱いサービスの場合、ユーザーを増やしていかなければならないため強気の規約は難しいことが多いと思いますが、一定程度のユーザーが見込まれる訴求力の強いサービスの場合には、多少強気で設計してもユーザーから拒絶又は修正提案をされずに進めることができるという判断もあり得るところです。

(2) 将来的な「サービス内容の変更」が可能な設計にする

SaaS事業においては、サービス内容が随時アップデートされていくことが当然に想定されているため、利用規約においても、事業者の判断により随時サービス内容を変更できる旨の規定を入れておくことが重要です。(※各条項解説の⑮参照)
但し、あまり露骨に変更が可能である旨を規定するとユーザー側からNGが出る可能性が高まるため、変更可能なサービス内容の範囲に限定(「合理的な範囲内」や「本サービスの重要部分を損なわない範囲において」といった限定)を予め加えておく方法が考えられます。
また、利用料金について変更が生じる可能性がある場合には、利用規約においてその旨を規定しておく必要があります。
但し、利用料金はユーザーとの契約の中でも特に重要な要素であるため、利用規約の中で事業者による変更権を規定していたとしても確実に有効とは言えない点に留意が必要です。
実際上の運用としては、利用規約において利用料金の変更権を定めた上で、変更に関して十分な周知期間を設ける、契約更新時に変更を適用する、状況により変更前にユーザーから個別同意を取得するといった方法で対応する方法が考えられます。

(3) 将来的な「利用規約の変更」が可能な設計にする

SaaS事業では、日々更新していくサービス内容の変化に合わせて利用規約の変更が必要になる場合が想定されます。そこで、予め利用規約の中で、利用規約の変更権についても規定しておく必要があります。(※各条項解説の③参照)
なお、利用規約の変更については、2020年4月より施行された改正民法により変更が許容される要件が明示されていますが、利用規約内においても民法の条文に合わせた形で変更権や変更の際の手続、効力発生日等について規定しておくことが望ましいです。

(4) 「損害賠償請求権の上限」を設定する

SaaSビジネスでは、低価格で多数のユーザーに広くサービスを提供するというビジネスモデルを採用していることの帰結として、事業者がユーザーとの関係で負担する損害賠償義務について上限を定めておくことが必要不可欠です。(※各条項解説の⑭参照)
一般的に、「事業者に故意又は重過失が認められない限り、一切責任を負わないものとする」、「責任を負う場合でも、直近の12か月間において事業者が当該ユーザーから受領した利用料金の総額を上限とする」といった形で設定されることが多いです。

5.SaaS事業の利用規約の運用上の3つのポイント

SaaSビジネスではユーザー規模を拡大していくことが事業計画の前提とされているため、ユーザーとの法律関係を画一的に処理するという観点が非常に重要です。そこで、利用規約の運用に際しては以下のポイントに留意する必要があります。

(1) ユーザーからの修正要請には「原則応じない」

ユーザー候補に対して営業し新規ユーザーを獲得する局面においては、事業者の営業メンバーは利用規約の修正に応じてでも新規ユーザーを獲得することを志向することが多いと思われます。
しかし、SaaSビジネスの長期的な事業成長を見据えた場合、画一的な処理の必要性の方が圧倒的に高いため、その場しのぎでの修正要請受諾は可能な限り避けるべきです。
そこで、法務メンバーと営業メンバーとで上記意識を共有し、営業メンバーからユーザー候補企業に対して利用規約を提示する段階で、「多数のユーザーに画一的にサービス提供する観点から、原則として利用規約の修正要請には応じられない」旨を明示してもらうなど、会社としてのスタンスを明確にしておくことが重要です。

(2) 修正要請に応じる場合は、条項ごとに修正受諾案と許容範囲等をリスト化して管理

企業向けSaaSの場合、ローンチ直後は大手企業に協力要請をして導入してもらうケースも多く、その際には利用規約の修正要請に応じざるを得ない場面があると思われます。
上記事情により「ユーザー獲得のために利用規約の修正に応じる方針」を採用する場合でも、場当たり的にユーザーからの修正提案について検討・受諾するのではなく、利用規約の条項ごとに「修正を許容できる条項か否か」「修正を許容する場合の判断基準」「修正を許容する場合の具体的な修正受諾案」等をリストアップしておくと共に、実際に修正受諾したユーザーの各修正結果を整理しておくことが重要です。
上記リストアップにより、ユーザーからの利用規約の修正要請に対して効率的に対応できる上、担当者によって修正受諾の基準が異なるような事態が防止できますし、ユーザーの強い要請により予め決めていた基準で処理することが難しい場合でも、過去どのような条件で修正受諾したかについて一覧性を持って確認・判断することが可能になります。
また、将来的にサービス変更や規約変更等をすることになった際に、全ユーザーの修正内容を全てチェックして変更の可否や通知の要否等を検討するといった煩雑な業務を回避することが可能になります。
なお、ユーザーからの修正要請に応じることにより発生するリスクは、大きく「法務リスクを高めるタイプのもの」(損害賠償義務の上限規定の削除や任意解除権の設定など)と「オペレーション上の手間を増やすタイプのもの」(支払条件の変更やユーザーへの事前通知義務の設定など)の2パターンに分類できます。上記の修正対応リストを作成する際には、上記どちらのパターンに該当するかを意識して作成するとより使い勝手のよいものになります。

(3) 営業-法務メンバー間で情報交換・メンテナンスを実施

利用規約は一度作成したら終わりではなく、ユーザー数やユーザー層の変化、サービス内容の変更に合わせて適切な内容に変えていく必要があります。
この点、普段からユーザーと接点を持ちユーザーの要望や疑問点を一番よく理解している営業メンバーと、利用規約を法的観点から理解している法務メンバーとで情報交換をすることは非常に有益です。
定期的に社内打合せの機会を設定し、営業メンバーが直近でユーザーから受けた問合せ内容を法務メンバーに共有し、それらについて法務メンバーがどう考えるかを協議することで各メンバー間の相互理解が深まりますし、それらの結果を利用規約の修正対応リストに記録し、必要に応じて利用規約に反映させていくことで、利用規約の適切な運用を実現することができます。

最後に

今回の記事では企業向けSaaSサービスにおける利用規約の作成ポイントについて解説しました。
SaaSサービスでは最初から完璧な利用規約を作成することは難しいですが、サービス開始後すぐに大幅な変更が必要になるような規約を作ってしまう事態は避ける必要があります。
本記事が、これからSaaSを立ち上げる事業者の皆様にとって適切で使いやすい利用規約を作成するための参考になれば幸いです。
今回記載しきれなかった点も含め、今後もSaaS事業者向けに法律関連コンテンツを執筆していきたいと思います。


付録 – 各条項の概要・留意点

■ 利用規約全体に関する条項

① 利用規約の適用範囲・利用規約への同意

利用規約が適用されるユーザーの範囲やサービス利用のために利用規約への同意が必要である旨を規定する条項です。利用規約適用の前提となる条項であるため非常に重要です。
ユーザーから同意を取得する方法として、「サービスのサイト上で『利用規約に同意する』といった表示にチェックしてもらう方法」と「利用規約に同意する旨を記載した申込書を書面等で提出してもらう方法」のどちらを採用するかにより、本条項の定め方も変わります。

② 利用規約における用語の定義

利用規約の内容を明確にすると共に、規約内における表現の重複を排除するための条項です。適切な定義により利用規約の実効性を高めることができます。

③ 利用規約の変更権留保と変更方法

利用規約を変更することができる旨の明示と、変更する際の手続きや変更後の規約の効力発生日等に関する条項です。
サービス内容の変更が想定されるSaaSでは、それに応じて利用規約の変更が必要になることも多いため、必要不可欠な条項です。

■ サービスの利用条件に関する条項

④ サービス内容の説明

サービスの内容に関する説明条項です。サービスプランが複数存在する場合には本条項で定義すると分かりやすいですし、利用規約外(サービスサイトや資料など)で定める方法も考えられます。
サービス内容の随時変更が想定されるSaaSでは、利用規約ではサービス内容についてあえて詳細は記載しないという方針も考えられます。

⑤ 利用料金・支払方法

利用料金や支払方法に関して定める条項です。料金・回収に直結する重要な条項であるため、どのユーザーが見ても疑義がないように明確に規定する必要があります。
なお、企業向けSaaSにおいては、営業戦略的な観点(ユーザーごとに料金を柔軟に設計できるようにする等)から、利用料金について具体的な金額を記載せずに利用規約外(申込書など)で定めることが多いです。

⑥ 契約期間と更新

契約期間や更新単位に関する規定です。企業向けSaaSでは1年縛り等の条件が付されることが多いところ、そのような拘束を設ける場合には本条項で明示しておく必要があります。
将来売上について可能な限り正確に予測を立てられるようにするという観点からは、契約期間の拘束を長めに設定しておくことが有効ですが、あまり長く設定すると営業上のハードルになるため、うまくバランスをとる必要があります。

⑦ サービス利用の終了・契約解除

サービスの利用を終了する際の条件や方法等について定める条項です。また、サービス終了後にユーザーに対して義務(サービスによって得たコンテンツの削除義務等)を課す場合にはそれらについても規定します。

ユーザーの義務・責任に関する条項

⑧ アカウントの作成・管理・ユーザー情報の変更

ユーザーごとに設定するアカウントの作成や管理、ユーザー情報に変更が生じた場合におけるユーザーから事業者への報告義務等に関する条項です。

⑨ ユーザーの遵守事項・禁止事項

ユーザーにおいて遵守すべき事項や禁止事項に関する条項です。
どのサービスでも必須になる一般的な禁止事項(虚偽情報登録の禁止や第三者による利用の禁止など)と、サービスごとに固有の禁止事項(マッチングサービスにおける直接取引の禁止やコンテンツ提供サービスにおける目的外使用の禁止など)があり、後者の禁止事項についてはサービス内容に即して設計する必要があります。

⑩ 利用規約違反の場合のペナルティ

ユーザーが上記⑨の遵守事項・禁止事項等に違反した場合のペナルティについて定める条項です。
一般的には、事業者がユーザーとの契約を即時解除できる旨や損害賠償請求できる旨を規定します。

■ 事業者の義務・責任に関する条項

⑪ サービスの非保証・免責

サービス内容に関して、一定の事項について保証をしない旨やサービスから発生する不具合等について免責される旨を定める条項です。SaaSでは必須の条項です。

⑫ サービスレベル

いわゆるSLAと言われるもので、企業向けSaaSにおいて設定されることが多く、利用規約外でSLAを定めた上で引用する形とすることも多いです。

⑬ サービスの一時的な停止の免責

サービスがサーバーの不具合等により一時的に停止する場合に免責される旨の条項です。SLAを定める場合にはそちらに規定されることもあります。

⑭ 損害賠償の上限規定

事業者がユーザーに対して損害賠償義務を負う場合の上限について規定する条項です。低価格で多数のユーザーに対してサービス提供することを前提とするSaaSにおいては必要不可欠な条項です。
一般的に、「事業者に故意又は重過失が認められない限り、一切責任を負わないものとする」、「責任を負う場合でも、直近の12か月間において事業者が当該ユーザーから受領した利用料金の総額を上限とする」といった形で設定されることが多いです。

⑮ サービスの内容の変更・終了

サービス内容を変更又は終了する場合の手続、変更又は終了した場合の事業者の責任について定める条項です。
サービス内容を常に改善・変更していくことを前提とするSaaSビジネスにおいては必要不可欠な条項です。

■ 知的財産権に関する条項

⑯ コンテンツ等の権利帰属

サービス内で授受されるソフトウェア・コンテンツに関する知的財産権等の権利の帰属に関する条項です。
サービスにおいて提供されるソフトウェア等の知的財産権が網羅的に事業者に帰属する旨の規定は必須で、これに加え、サービス内において事業者がコンテンツを提供する場合には当該コンテンツに関する権利が事業者に帰属する旨を規定します。また、サービスの中でユーザーがコンテンツをアップロードできる仕様になっている場合には、それらのコンテンツに関する権利の帰属を規定する必要があります。

■ その他一般条項

⑰ 秘密保持義務・個人情報の取扱い

事業者・ユーザーの双方が負う秘密保持義務や、事業者の個人情報の取扱上の義務に関する条項です。個人情報の取扱については利用規約外でプライバシーポリシーを定めた上で引用する形とするのが一般的です。

⑱ 反社会的勢力の排除

ユーザーが反社会的勢力に該当しないことの表明保証や該当する場合の解除権等に関する条項です。

⑲ 契約上の地位移転

ユーザーが契約上の地位を移転できない旨を定めると共に、必要に応じて事業者が事業譲渡等の場合に契約上の地位を移転することができる旨を定める条項です。

⑳ 準拠法・裁判管轄

利用規約が準拠する法律が日本法である旨を定めると共に、ユーザーとの紛争が発生した場合の管轄裁判所について定める条項です。


執筆:淺枝謙太 | UB Ventures スペシャリスト
2021.03.08