【村上未来】ユーザベースIPOを支えた元CFOが語るチーム経営の重要性

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名将の陰に名参謀あり——

ユーザベース創業者の新野良介は、2010年から2018年まで同社のCFOを務め、元UBS時代の同僚でもあった村上未来を「戦友」と呼ぶ。

在職中は管理部門を統括し、ありとあらゆるバックオフィス業務を引き受け、上場までを導いた立役者。2019年より独立し、現在はスタートアップを中心にアドバイザリーを手掛けるsomebuddyを設立。

多くの起業家へのアドバイザリー、そして自身のCFO経験を踏まえ「スタートアップが非連続成長遂げるための秘訣」、そして「チーム経営」がもたらす可能性を伺いました。

村上未来 : 株式会社 somebuddy 代表取締役
PwC、UBS証券投資銀行本部、KPMGヘルスケアジャパンを経て、2012年、ユーザベースに参画。CFOとして上場会社としてのコーポレート部門の基盤づくり、IPOや資金調達、M&Aに尽力。2019年スタートアップ企業を中心にアドバイザリーを手掛ける株式会社somebuddyを設立し、様々な会社の成長支援を行う。

* 村上氏はUB Venturesの外部パートナーを務めます

目線が現在の事業の延長線上にしかなければ成長は止まる

——ユーザベースのCFOを長年務め、現在は多くのスタートアップを支援されている立場から、起業家と接する中でどのような企業が圧倒的な成長を遂げると感じられますか?

アドバイザリーを始めて以来、多くの起業家と話をしてきましたが、大多数の方が陥りがちな状況があります。

それは、「現在」に集中しすぎてしまうことです。

——営業活動やKPI達成など、「現在」に対し強度を持つことは悪いことではないですよね?

もちろんそれは大事なことです。ただ、日々の業務に忙殺されているがゆえに、数年後の成長が現在の事業の延長線上にしかなければ、いずれ立ち行かなくなる時がきます。

上場を果たしたスタートアップの多くも、単一プロダクトから複数プロダクトへの展開、もしくは、事業展開の地域を思い切って拡大する様子が多く見受けられます。

私の経験から、まだまだ無名だったユーザベースが上場までに辿った成長投資の裏側をお伝えしたいと思います。

ユーザベース成長投資の裏側

こちらがユーザベースのIPOまでの流れです。

2009年にSPEEDAをリリースしましたが、その中国コンテンツをつくるべく、2013年の1月には上海事務所の開設、そしてその半年後に、香港・シンガポール拠点での営業活動を開始しています。

——海外オフィスの開設に対する意思決定自体は、1年程度かかるはずですから、2011年頃、創業3年目にはその投資を考えていたのですね。

そうです、まだ社員数が40名に満たない会社でしたが、SPEEDAというプロダクトをグローバルに展開するという視野の元、国内での事業展開を最速で行いながらも、機会を伺っていました。経営陣の雰囲気的にも「当然海外展開する」という視座の高さがありました。

まだ無名なベンチャーが海外に展開をするわけですから、大掛かりにはできません。まずは、創業者である新野がシンガポール、執行役員でプロダクト開発の責任者であった岩澤が香港にそれぞれ単身で乗り込みました。経営上の優先事項と位置付け、会社の経営リソースの思い切った配分を行っています。人的にもまだリソースが限られる中で、経営陣3名のうち1名、執行役員3名のうち1名を投下したわけです。

——2011年ごろのSPEEDAはプロダクトが既に定着しつつあったとは言え、まだまだ国内はこれから拡販期という感じですので投資家から反対はされませんでしたか?

これに限らず、その後も何度も反対の意見をいただきました。(笑)
その代表格がNewsPicksです。

——NewPicksはそれまでのBtoB事業ではなく、BtoC事業ですから、全く勝手が違ったのではないでしょうか?

NewsPicksは梅田が自身が情報収集で最も役に立った投資銀行時代の体験をサービスにしたいと考えた事業です。2013年にリリースですので、事業への取り組み自体は、まだSPEEDAの売上が数億円規模というタイミングで取り組むことを決めています。

この後にも国内企業の買収や海外NewsPicks事業の展開なども含め、常に2,3年後に新たなチャレンジをするサイクルを回し続けました。当然、失敗も多くありましたが、国内のSPEEDA事業だけをコツコツやっていれば現在までのの非連続な成長はあり得なかったと思います。

事業KPIの達成に強度を持つことや、組織に目を向けることは重要ですが、本当にスタートアップとして成長を遂げたいのであれば「創業1年目から3年後にどんな事業に投資するかを考えるべきだ」と起業家にお伝えしています。

「共同創業はありか?」に対する私の答え

——「3年後の投資を考える」にあたって大事なことは何でしょうか?

これは、1にも2にも仲間集めに尽きます。

ユーザベースは梅田、新野、稲垣という3名の創業者が取締役を務める体制からスタートしました。2012年から2013年にかけて執行役員になるメンバーを集め、2013年に創業取締役3名、執行役員4名の体制が整いました。

「チーム経営」を標榜し、時にはCEO等の役割を交代で任せ合いながら、事業成長に最適な形でマネジメントを行ってきました。
* 現在ユーザベースは、創業者の梅田、新野が退任をしたものの、2021年より、稲垣、佐久間、松井によるチーム経営に取り組む

NewsPicksの立ち上げにあたっては梅田がフルコミットで取り組みをはじめたため、創業プロダクトであるSPEEDAはローンチ5年目にも関わらず、一人のマネジメントが直接は事業に関わらなくなりました。

もし、CEOや社長1名の体制で事業を行っていれば、早期にこのようなチャレンジをすることは不可能だと思います。

今でこそ定着しつつある共同創業ですが、起業当初は「絶対にうまくいかない」「誰かに権限を寄せるべきだ」といった意見を沢山いただきました。

しかし、強い事業コミットを持ち、背中を預けられるマネジメントレベルの仲間がいなければ、非連続な挑戦をしづらいことも確かです。共同創業に拘る必要はありませんが、新たに事業をつくる場合でも、組織作りを任せる際も、なるべく早い段階で強力なマネジメントチームをつくれなければ、拡大に限界を迎えます。

向き不向きや、デメリットもあることは承知の上で、共同創業は私たちの非連続成長には必要不可欠でした。

創業者が異常にカルチャーにコミットしなければ浸透はしない

——その他に非連続成長のために再現可能な要素はありますか?

もちろん非連続な成長のためには、経営者の視座や、厚いマネジメント層だけでは到底達成できません。メンバーの力、組織作りが不可欠です。ユーザベースは強い組織づくり、そして、徹底したコーポレートカルチャーの浸透がありました。

——ユーザベースではなぜ組織基盤となるようなカルチャーが浸透できたのでしょうか?

一言で言うと、3名の創業者が異常な程、カルチャーを体現することにコミットしていたからだと思っています。もう少し解像度をあげると、

  1. マネジメントによる不断の発信と体現
  2. 入社時や人事考課における従業員のカルチャーフィットネスの重視

ということだと思います。

——解説をお願いします。

「マネジメントによる不断の発信と体現」ですが、ユーザベースには会社のバリューを言語化した7つのルールがあります。

代表の梅田は7つのルールに関連した話を「梅田通信」というメルマガを数年に渡って発信し続け、同じく代表だった新野もメンバー間でコミュニケーションの行き違いがあれば、自ら間に入って会話をしオープンコミュニケーションの重要さを創業以来、示し続けました。

具体的な行動においては挙げきれませんが、マネジメントがキレイに明文化された文章を掲げただけでなく、自らが誰よりも強度を持って示し続けた結果、リーダー陣に浸透し、連鎖して、メンバーの行動指針となっていったのです。

費やした労力や時間を考えれば、ものすごい資本投下であったとも言えます。

また、「入社時や人事考課における従業員のカルチャーフィットネスの重視」ですが、端的には、「スキルは抜群に高いけどバリューフィットが微妙」という採用はしないことを決めました。

恒常的にリソースが足らず、採用競争力もまだ無い段階で苦しい決断をしなければいけないこともありましたが、結果的にもこの考えは間違っていないかったと言えます。

入社後の人事考課の仕組みにも、評価軸にバリューがあり、どんなにプログラミング技術があっても、どんなに営業成績が高くとも、ユーザベースのバリューへの理解・体現する姿勢が無ければ、評価されない仕組みを導入していました。

今や従業員規模はゆうに500人を超えますが、上記を始めとしたカルチャーと一体化した強い組織は、新たな事業が生まれてもユーザベースが一体となることができる基盤です。

次世代を担う起業家に向けて

非連続な成長はもちろん簡単なことではありませんが、私のユーザベースの経験から特にお伝えしたいことは、この3つの要件です。

いろいろ偉そうに言っていますが、経営は失敗の連続でそれでもミッションに向かって断固と走り続けることで、会社はきっと成長してゆくと思います。私自身も失敗の連続、手探りの日々でした。最初からあるべき経営者の立ち居振る舞いなんて誰もできる訳ないと思っています。

どんなピンチな状況でも、是非ともチームであきらめずに乗り切ってほしいと思いますし、心から応援しています。

とにかく100%コミット、その心構えで頑張りましょう!


執筆 : 早船明夫 | UB Ventures チーフ・アナリスト
2021.01.17