プロダクトマネジメントと言えば「Flyle」。市場創出の支援こそVCの醍醐味

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起業の瞬間から、いや、起業の「少し前」からUB Ventures (以下、UBV)が支援してきた株式会社フライルが、2022年7月、プレシリーズAでラウンドで3億円を調達した。UBVはフライルをどのように支援、伴走してきたのかーー。UBV代表の岩澤脩がフライル代表の財部優一氏と共に振り返る。

近年、ニーズが急増するプロダクトマネジメントを支援

──改めて、フライルが提供しているサービスの概要について教えてください。

フライル財部:現在、あらゆる産業がソフトウェア化する中で、プロダクトマネジメントのニーズが増加しています。

米国ではすでにプロダクトマネージャーの求人が倍近くに伸びているなど盛り上がりを見せており、日本でも同様の傾向が見られるようになっています。

Flyleについて
設立:2020年2月10日
事業内容:事業内容:顧客と製品のフィードバックループを構築する次世代プロダクトマネジメントプラットフォーム「Flyle」を提供。製品フィードバック・失注理由・解約理由など、多様な経路のデータを集約・一元化。さらに、集めたデータを基に、機能開発の優先度づけ・ロードマップでの共有を可能にするクラウドサービス。複雑なプロダクトマネジメントのプロセスを、ワンストップでワークフローを構築、既存業務を効率化する多様な機能を揃えている。
HP:https://flyle.io/jp

私たちが提供している「Flyle(フライル)」は、プロダクトマネージャーが、より創造的な業務に注力できるように、労働集約的な業務を効率化・自動化するプロダクトマネジメントプラットフォームです。21年6月に提供開始して以来、100社以上で利用実績があります。

UBV岩澤:はじめてお会いしたのは2019年頃でしたね。

Flyle財部:はい。現在COOで以前から会社を一緒に立ち上げようと話していた相羽輝がユーザベース出身だったこともあり、岩澤さんを紹介してもらい、ランチをご一緒したのが最初ですね。

財部 優一 Yuichi Takarabe Flyle 代表取締役CEO
慶應義塾大学卒業後、Fintech系スタートアップZUUの創業期に参画し、執行役員として、マザーズ上場までの急成長を経験。ZUU onlineを中心とする金融メディアプラットフォームの事業責任者や金融機関向けマーケティング支援事業の立ち上げに従事。創業期から上場後までの各フェーズで採用や組織制度設計にも従事。2020年2月にFlyle,Inc.を共同創業。

UBV岩澤:そのときは起業相談のような感じでしたね。その後、2019年夏に、起業家のためのソーシャルクラブ「Thinka」をUBVが立ち上げ、その1期生として参画していただきました。

当時、フライルはオフィスがなかったので創業メンバーはずっと渋谷のThinkaに居ましたよね。時間をみつけては、そこでフライルのメンバーたちと一緒にディスカッションしました。

社名が「フライル(Flyle)」に決まったときも、Twitterでプロダクトマネージャーの方々に片っ端から声掛けしてユーザーインタビューしていたときも、Thinkaで見ていました。創業初期を僕らも一緒に体感させてもらったという感じはありました。

岩澤 脩 Osamu Iwasawa UB Ventures 代表取締役 マネージング・パートナー
慶應義塾大学理工学研究科修了後、リーマン・ブラザーズ証券、バークレイズ・キャピタル証券株式調査部にて 企業・産業調査業務に従事。その後、野村総合研究所での、M&Aアドバイザリー、事業再生計画立案・実行支援業務を経て、2011年からユーザベースに参画。執行役員としてSPEEDAの事業開発を担当後、2013年から香港に拠点を移し、アジア事業の立ち上げに従事。アジア事業統括 執行役員を歴任後、日本に帰国。2018年2月にUB Venturesを設立し、代表取締役に就任。

フライル財部:僕としても、今とは違うビジネスモデルを考えていたときから岩澤さんには相談させてもらったので、創業前から一緒に働いているという感覚がありましたね。

特に、シード期のパートナー選びの際、改めて「どういう人がベストなパートナーなのか」と考えるタイミングがありました。シード期は最も不確実性の高いフェーズだけに、一緒にやり遂げられる仲間であること、良い時だけでなく悪い時でも強力にサポートしてくれる信頼感と人柄が何より大事だと考え、岩澤さんパートナーにお願いすることにしました。

岩澤さんはSaaS事業の立ち上げからグロースまで経験されており、経験者ならではの良質なインプットをいただけると、Thinkaで議論させていただいていたときから実感していました。事業の解像度が高いので、自分たちの戦略・戦術の良き理解者でした。

例えば、海外の参考文献や記事、他業界のベンチマークにおける参考資料などを教えてくださるのですが、それがどれも的を得ていて、僕たちの知らないことばかり。フライルは、日本に市場自体がないプロダクトを手掛けているので、国内の事例だけだと行き詰ってしまうのです。海外の事例などのインプットが、事業を進める力になりました。

岩澤さんは「実際の経営経験から、こうした方が良い」と、自身のスタンスを持ってアドバイスしてくれることも印象的でした。アドバイスしつつ、最後は起業家の決断を信じて、応援してくれるのも、心強いと感じていました。

UBV岩澤:確かに、これまでプロダクトをつくってきたということもありますが、自分が触って体験した感想やフィードバックをできるだけシェアしていこうと意識していました。そうした意味では、本質的にプロダクトやユーザーに向き合うマインドがフィットしたのかもしれませんね。

フライル財部:岩澤さんが書かれた「Must have SaaSの方程式」という記事が、とても勉強になりました。SaaSの本質的な価値は生産性の向上である、どれだけコストカットと売上増に貢献しているのかが重要である、生産性の向上には付加価値としてのユニークなインサイトや作業代替性を生み出す必要がある、など、高い解像度で言語化、体系化されています。そうしたアドバイスも普段から見ていたので、プロダクトやユーザーに向き合う姿勢に関しては疑う余地がありませんでしたね。

「新たな市場を切り拓くからこそ世界を狙える」と投資を決断

UBV岩澤:創業前、様々なアイデアがありましたよね。最終的にプロダクトマネジメントの領域で起業すると聞いて驚きました。私からは、国内にまだ市場が顕在化してない状況だったので、ファーストプレーヤーである自分たちの成長が市場の成長になるよ、という話をしましたね。

今回2回目の投資をさせていただいた理由も、その点に尽きます。フライルは単なるスタートアップの成長に留まらず、市場そのものを切り拓いている。それが評価させていただいている最大のポイントです。スタートアップを選んでチャレンジしているからには、「市場を創出する」くらいのチャレンジの大きさが必要になると思います。

フライル財部:確かに国内のプロダクトマネジメントの市場は他の市場と比べ「潜在的」だったと思いますが、岩澤さんは、スタートアップとしての大成功を狙うならむしろその方が良いと考える方です。PLG(=Product Lead Growth)の波もある中で、この領域であれば世界を狙える、と。

投資家によって考え方は様々です。日本特有の商習慣がある領域に攻め入って参入障壁をつくり、国内でグロースしていくべきだという考え方もあるでしょう。他方で、日本特有の商習慣に合わせてグロースすると、それがむしろ、グローバル展開の制約になってしまうという考え方もある。

岩澤さんはどちらかというと後者。国内に市場がなければ制約もない。言語対応さえすれば海外に展開して世界を取れるという考えをお持ちだと認識しています。

UBV岩澤:確かに海外のことは意識していたかもしれませんね。諸外国でも同様のプロダクトが爆発的に立ち上がっていたわけではない。また、僅かな競合を見てもそこまで差があるようにも見えない。だから、グローバルでもフライルがシェアを取れるという期待感はありましたね。

アドバイス時はスタンスを明確化して意思決定をサポート

──具体的にはどんなコミュニケーションをしていましたか?

UBV岩澤:財部さんとは毎週1on1セッションをさせていただいていました。フライルの創業メンバーは非常に実行力が高い。これが、強みにも弱みにもなると当初から感じていて、そこがボトルネックになってスピードが落ちることを一番懸念していました。

特に懸念していたのが、採用やファイナンスのタイミングです。現メンバーによるエグゼキューションにフォーカスするあまり、採用やファイナンスに遅れが出ることがフライルの立ち上げ期における一番のリスクになると心配でした。

だからこそ、財部さんとの会話の中では常に採用とファイナンスは前倒しで動こうとアドバイスしていました。

フライル財部:たしかにコーポレート職の採用は正直、もう少し早くてもよかったかもしれませんね(笑)。最近では先のステージで求められる組織体制を理解されている岩澤さんの感覚をより頼りにしています。

UBV岩澤:財部さんは意思決定のスピードが凄く早いし、クオリティも高い。ただ、最適な意思決定ができる材料をこちらで提供できれば、さらに良い意思決定ができるのではないかという仮説を持っていました。

そのため、こちらから明確にスタンスを持って提案する方が財部さんも考えやすいのかなと思ってアドバイスしていました。

「プロダクト開発者のためのCRM」という新カテゴリを創造する

──最後に、財部さんは今後どのように事業を成長させたいですか?また、岩澤さんはどうサポートしていきたいですか?

フライル財部:セールスならSalesforce、マーケティングならHubSpotといったように代表的なCRMが存在するように、顧客と良い関係を築き、製品をより素晴らしいものにする「プロダクト開発者のためのCRM」という新たなカテゴリを創造したいと考えています。

これまで、プロダクトマネージャーを始めとした開発部門が顧客ニーズを理解するためには、労働集約的な手段を取らざるを得ない状態でした。たとえば、Slack、Zendesk、Salesforce、スプレッドシートなど様々なツールに散らばる顧客の声を、手動で集約・分析したり、多忙な中、他部門へのヒアリングや商談同席・ユーザーインタビューを行うなどです。

今回の資金調達では、よりプロダクトマネージャーの方々を労働集約的な業務から解放するため、フィードバック収集・分析・仮説検証における反復的な業務をより「自動化」する機能や、ロードマップや優先度スコアリングなどプロダクトマネジメントのワークフローを一気通貫で実現するための機能開発に大きく投資していきます。これまでの労働集約的なプロセスを劇的に改善できるプラットフォームに進化させたいと考えています。

また、ここ数年でIT業界以外のお客様にも活用頂けるプラットフォームとしても進化していきたいと思っています。実際、直近でもハードウェアを扱う企業や大手飲食店など、非IT系の企業の活用事例や問い合わせも少しずつ生まれてきています。プロダクトマネージャーという職種を設置していない企業でも、同様の業務や課題を抱えている部門が存在するため、Flyleが力になれる余地は大きいと感じています。

プロダクトマネジメントソフトウェア領域は、世界でも黎明期の市場と言えます。このタイミングでチャレンジすることで、世界中で業界問わず活用されるプラットフォームを作るチャンスが大いにあると思っています。

UBV岩澤:今回の資金調達によってフライルの経営陣に求められるミッションも大きく変わるでしょう。これまでの立ち上げ期は創業メンバーのキャパシティがボトルネックとならないようにサポートしていましたが、ここから先は違う関わり方になると思っています。

僕らとしては、より戦略面でのインサイトを提供することが必要になるでしょう。これまではプロダクトをつくるというフェーズでしたが、今後はプロダクトを通じ、マーケットを創出していくというフェーズです。戦略の具体性と修正の速さが求められるはずなので、これらのチューニングに関する伴走をさせていただくつもりです。

フライルの挑戦は、「日本のプロダクトマネジメント市場を創造する」ということにとどまりません。その先には、次世代のCRM(顧客情報管理プラットフォーム)として世界を相手に勝負をしてもらいたいと強く思っています。

今、グローバルでは、過去20年間一部のメガSaaSが席巻してきたCRMが、業種毎に細分化され、新しいプレーヤーが生まれるという地殻変動が起きています。

フライルは、プロダクトマネジメントというテーマを軸に新時代のCRMとして、その潮流の中心プレーヤーになっていくと信じています。UBVとしても、私としてもその為に全身全霊で成長の伴走をしていきたいと思います。


編集:久川 桃子 | UB Ventures エディトリアル・パートナー
撮影:小池大介
2022.08.29