ワンキャリア上場。UB Venturesがともに作ったエクイティストーリーの裏側

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シリーズAからUB Ventures (以下、UBV)が投資してきたワンキャリアが10月7日、マザーズに上場した。ワンキャリアが上場に向けて成長する過程において、UBVはどのように伴走してきたのか。UBV代表の岩澤脩と、ワンキャリア代表の宮下氏がこれまでの道のりを振り返る。

採用DXのリーディングカンパニーを目指すワンキャリア

UBV岩澤:10月7日、マザーズに上場されました。おめでとうございます。2015年設立から6年目を迎え、いよいよ新しいステージが始まりました。

ワンキャリア宮下:ありがとうございます。UBVにはシリーズAからサポートをいただき、ここからまたさらに伴走していただくつもりです。

UBV岩澤:ワンキャリアは、もともと新卒採用のクチコミメディアとしてスタートしましたが、上場してずいぶん見える景色が変わってきたのではないかと思います。

ワンキャリア宮下:はい。これまで日本にはなかった新卒、中途すべてのキャリアデータを新しく定義していく。上場によって、これから本格的にそのチャレンジが始まるんだ、というワクワクした気分です。

UBV岩澤:ワンキャリアは、業績も企業規模もこれまで急成長を遂げてきています。

ワンキャリア宮下:これまで売上高は年率40%以上の成長を遂げてきました。創業以来5年で80万人以上の求職者会員、1万社以上の採用企業に関するキャリアデータが蓄積されています。

このキャリアデータを用いた採用DXを推進する「ワンキャリアクラウドシリーズ」は700社以上にご利用いただいています。今後も採用DXの領域で、リーディングカンパニーになっていくつもりです。

宮下尚之 Takashi Miyashita ワンキャリア代表取締役社長
2010年にマース ジャパン リミテッドに入社。マーケティング業務、経営企画業務に従事。同年に株式会社トライフを創業。その後、2015年にワンキャリアを設立し、代表取締役に就任。

UBV岩澤:UBVがワンキャリアに投資したのは、2019年7月。UBVとして、メディア・ディスラプターとなる投資先を探していたときでした。既存メディアのパラダイムシフトが起きている中、業界変革をリードできるスタートアップはないか、と。

ワンキャリア宮下:岩澤さんにお目にかかったのは、ユーザベース代表(当時)の梅田優祐さんから、UBVを紹介してもらったのが最初です。梅田さんとの会話では、出資する、しないという雰囲気ではなかったんですが…(苦笑)。

UBV岩澤:そうなんですか!?

梅田からは「うちが絶対に支援したい起業家だ」と聞かされて、宮下さんに会いました。初めてお話したとき、「SaaSとAIを活用する」という明確な意図があるのがすばらしいと思いました。

ワンキャリア宮下:HRの領域では、求職者も人事も意思決定のためのデータが、蓄積されていないという課題がありました。僕らは、採用データをためて活用することを目指しています。

「ONE CAREER」という新卒向けのクチコミのメディアを作り、就活生から多くの支持を獲得することができました。学生の利用率が上位校でほぼ100%となったタイミングを経て、次は採用側の人事に活用してもらうフェーズとなりました。

これまでの採用は、ニーズに合わせて広告を出稿するのが定番。これからは、データを活用した採用DXを広めていきたい。データもなく、アナログでやってきたことを、デジタル化し、AIを活用するのが僕らのミッションです。それをSaaSビジネスモデルで実現していきます。

岩澤 脩 Osamu Iwasawa  UB Ventuers 代表取締役
慶應義塾大学理工学研究科修了。リーマン・ブラザーズ証券、バークレイズ・キャピタル証券株式調査部にて 企業・産業調査業務に従事。その後、野村総合研究所での、M&Aアドバイザリー、事業再生計画立案・実行支援業務を経て、2011年からユーザベースに参画。執行役員としてSPEEDAの事業開発を担当後、2013年から香港に拠点を移し、アジア事業の立ち上げに従事。アジア事業統括 執行役員を歴任後、日本に帰国。2018年2月にUB Venturesを設立し、代表取締役に就任。

ワンチームになってくれる投資家を求めていた

ワンキャリア宮下:岩澤さんにお目にかかったのは、投資家というよりも、SaaSビジネスのアドバイスをしてくれる人を探していたときだったんです。

いろいろな投資家の方に会ってきましたが、事業へのアドバイスをくれたのは、岩澤さんくらいでした。中には、投資したらどれくらい儲かるのか、という基準だけで僕らを判断する投資家もいました。

しかし、岩澤さんは「NewsPicksではこうだった」とか、「SPEEDAが伸びるときにはこういうストーリーがあった」と、具体的な事例を教えてアドバイスしてくれました。

そもそも、僕は、投資家も含めた「ワンチーム」をつくりたい。投資家に求めているのも、お金だけではなくアドバイスです。事業を真ん中において、膝を突き合わせて詰めていけるようなパートナーシップを求めていました。組むならその領域でナンバーワンの人だ、というのも決めていました。

UBV岩澤:当時のワンキャリアは、新卒で唯一の「キャリアデータプラットフォーム」として注目を集めていました。世の中の通年採用への流れも追い風になって、新卒採用のパラダイムシフトが確実に起きていると感じていました。とはいえ、当時のワンキャリアの採用領域全体への解像度はそれほど高かったのかというと、決してそうではなかった。

ワンキャリアの目指すものは、ユーザベースが10年かけて追いかけてきたミッションに近いもと思ったんです。NewsPicksではメディアが一方的に情報を提供する情報の非対称を是正しようと、ユーザー間のPickやコメントを取り入れ、情報に対するユーザー間の主体的な議論を巻き起こしてきました。

採用においても、採用する側から採用される側へと情報が一方通行で、そこに中間マージンが発生して儲ける仕組みがある。これは不健全だし、採用する側、される側の非対称性をなくして双方向化するというワンキャリアのチャレンジは、すごく共感できます。メディアだけで終わらずにその後のビジネスへと広げ、採用をDX化していくというビジョンにも大いに納得できました。

ワンキャリア宮下:求職者の登録が伸びることはわかっていたので、あとは採用する側の契約をどう伸ばすか、が課題でした。ほかの投資家によくアドバイスされたのは、集めたデータをクローズドに扱おうという方法です。でもそれは、スタート地点から僕らの考えとは180度違う。

これまで公開されてこなかったデータを公開することでSaaSモデルをつくろうとしているのに、蓄積したデータをクローズドにして売買するのでは、話が違いますよね。僕らの考えに共感して、同じチームになってくれる投資家をずっと探していたんです。それは、まさに岩澤さんでした。

ワンキャリアについて
設立:2015年8月
事業内容:ワンキャリアは、求職者に新卒採用支援メディア「ONE CAREER」と中途採用支援メディア「ONE CAREER PLUS」、企業に採用DX支援を行う「ワンキャリアクラウドシリーズ」を提供。
就活マーケットの透明化や、採用DXによる人事の業務改善/効率化を実現。
HP:https://onecareer.co.jp/

バーチャルCFOとして伴走

UBV岩澤:シリーズAでサポートさせていただくようになってから、だいたい四半期に1回、あとは必要なタイミングで宮下さんとはミーティングさせてもらっています。

ワンキャリア宮下:僕らには、困ったときに相談できる方が、何人かいて、相談したい内容に合わせて、相手や相談する順番を考えるようにしています。

もう出したい答えがほぼ決まっていて、背中を押してもらいたいときはユーザベースの梅田さん、論理的に分析してアドバイスしてもらいたいときは別の起業家の方にご相談しています。

事業のことで相談するなら、まずは岩澤さんです。我々のやっていることが長期的なビジョンで見て正しいのか、とか。そういうことは岩澤さんに聞きに行きます。

UBV岩澤:それはうれしいですね。なんか、言わせていたりしませんか(笑)。

ワンキャリア宮下:先輩の事業家としても頼りになりますし、ワンキャリアにはCFOがいないので、「バーチャルCFO」的な存在として、ファイナンスについても教えてもらっています。

例えば、上場のタイミングは今なのか、資金調達ではどれくらい集めるべきなのかというようなことも、岩澤さんに細かく相談してきました。

UBV岩澤:そんなふうに褒めてもらって、鳥肌が立っているんですが(笑)。

ワンキャリア宮下:上場に合わせて、CFOを採用するつもりで、その面接などにもご協力いただきましたよね。結局、採用は見送ることになったんですが、それも、「求めるCFO像と採用候補者にはズレがあると思う」という岩澤さんの一言がきっかけでした。

同じCFOでも、上場前と後では必要な知識やスキルが全く違ってくると指摘をいただきました。自分たちでもいろいろ調べて、最終的に採用は取りやめて、今も空席のままです。ですから、バーチャルCFOは岩澤さんですね。

UBV岩澤:CFOのミッションは、上場後に大きく変わります。それを踏まえると、適正な人材なのかということが、疑問でした。

上場に向けての準備ということでは、エクイティストーリー(※)の作成を1ページ1ページ一緒にやれたのは、僕にとっても投資家冥利に尽きる体験となりました。

(※)投資家や株主向けに、会社の強みや特長、成長戦略を伝えるためのストーリー。資金調達完了後の資金の使いみちや事業戦略、成長戦略を説明する

ワンキャリア宮下:エクイティストーリーの作成では、細かく、全ページにツッコミを入れてくれました。このストーリーはわかりにくいとか、ページを入れ替えたほうがいいとか。そんなところまで見てくれるんだ、と感動しました。うちの会社には、投資家や金融機関の目線でものごとを見られる人材がいないので、岩澤さんに教えてもらいながらエクイティストーリーを作れたことは、すごく勉強になりました。

UBV岩澤:上場前後では、投資家やVCの見るポイントが違ってくるんです。彼らの見ているポイントに合わせて、その違いを埋めていく作業も大切です。

目的は、バリューを上げることではなく、ミッションの実行

ワンキャリア宮下:投資家の心理を相談したこともありましたよね。ある投資家と交渉で、必要以上の高いシェアの投資を提示されて、その真意を僕らは測りかねていた。岩澤さんに、「これはどういうことなんですか」と相談しました。

UBV岩澤:その案件は結局、意向が合わずにディールブレイク(取引中止)しましたよね。でも、そのとき、僕はワンキャリアの姿勢に感銘を受けたんです。

「バリューが上がる」=「自分たちの価値が上がる」ことだと、多くの起業家がファイナンスの軸で考えがちです。しかし、ワンキャリアは、あくまでも「自分たちの目指す世界をつくる」ことにこだわっていました。ファイナンスは「目的」ではなく「手段」なんだと、投資家として思い知らされたエピソードでしたね。

もちろん、バリューは上がったほうがいい。ただし、それが事業を成長させるための「生き金」かどうかが重要です。目的は、資金調達することではなく、あくまでも事業でミッションを達成すること。これは、アーリーステージにいるスタートアップにも伝えていきたいですね。

ワンキャリア宮下:僕らが岩澤さんを信頼している理由のひとつが、アドバイスはしても、それを決して強要しないからなんです。僕らが岩澤さんのアドバイスと違う選択をしても、「じゃあ、そこからどうしようか」とすぐに切り替えて応援してくれる。そういう岩澤さんの対応が、僕らにとってはすごく心地いいんです。

UBV岩澤:何かを強要しないということは、意識的に心がけています。僕も事業をやっていて投資家にあれこれ注文をつけられるのがイヤだった経験があったので。

でも、意見を言われることは、思考を深めるきっかけにはなる。見当違いな意見でも、自分1人では思いつかなかった視点が見えて、幅を広げるきっかけにもなります。

ですから、アドバイスはちゃんとする。でも、その後の選択は起業家が決断することで、その選択を応援する。それは自分の中に染み付いている考え方ですね。

ぶれないチーム力の強さで社会を巻き込む

ワンキャリア宮下:いくつものスタートアップに投資している岩澤さんから見て、ワンキャリアの強みはどこにあると分析されますか。

UBV岩澤:まず、「ぶれない」こと、そして「チーム力の強さ」です。

2年間ご一緒していますが、ビジョンが寸分の曇りもなくぶれないのはすごいことです。チーム力でいうと、社長の宮下さん、副社長の長澤有紘さんの2トップがしっかり対話ができています。そのうえで、ほかのメンバーとも深い議論を交わしていて、それが経営に生きていると思いますね。

あとは、「有言実行」で、どんなことも必ず達成するのは、さすがですね。途中で修正するとしても、腹落ちするようにきちんと説明をしてくれます。そういう姿勢が、社員を含めたあらゆるステークホルダーからの信頼につながっていますよね。

最後に、ワンキャリアには、「社会を巻き込む力」があると感じています。多くの人から共感を得て、みんなが応援したくなる事業をつくっている。その結果が、就活メディア評価のランキング入りという形で結びついたのは、うれしかったですね。

上場は手段。最速でミッション実現を

UBV岩澤:上場するとまったく違う景色が広がっていて、その分制約も出てきます。ワンキャリアがこれからどんな選択をしていくのかが、今は楽しみです。変に萎縮せず、上場をひとつの手段と捉えて、最速でミッションを達成してほしいですね。

ワンキャリア宮下:ワンキャリアは、これまでワンキャリアクラウドをはじめ、新卒採用事業をメインに展開し、ユーザーから大きな信頼と評価をもらってきました。それが法人取引累計社数782社という数字に現れています。新卒採用のメディア出稿は、全体で約3万社といわれています。その3万社まで我々の契約数を伸ばすよう、これからチャレンジしていきます。

また、今回の上場は、中途採用市場への参入を視野に入れたものです。多様なプレーヤーがひしめくマーケットで、「人の数だけ、キャリアをつくる。」という我々のミッションをぶらすことなく、実現していきたいですね。

UBV岩澤:日本の採用市場におけるキャリアデータは、まだ誰もつくれていません。そのファーストペンギンとなって、プロ投資家も巻き込みながらミッションを実現してください。


編集:久川 桃子 | UB Ventures エディトリアル・パートナー
撮影:小池大介
2021.10.22