【SaaS】シリーズA前の課題「ターゲティングの失敗」を避けるアクション

By大鹿 琢也

SCALING

BtoB SaaSプロダクトにとって、「誰の何の課題を解決するか?」は、最も意識される問いです。

国内外のSaaSスタートアップの事例を見ていく中でも、ローンチ当初から全く顧客ターゲットが変わらず成長を遂げるケースは稀です。多くの企業が部分的にピボットを迎えることもめずらしくありません。

事業構想の段階では「解像度の高い顧客設定」ができたと思っていても、実際にお金を払い使ってもらう段階では仮説が全く通用しないことはよくあります。
このようなSaaSビジネスにおける仮説と実証の往復をできるだけ少なくする近道は「明確なターゲット設定とその理解」に他なりません。

ここでは、私自身のSaaS事業経験や、キャピタリストとしての起業家とのディスカッションを元に集約した「BtoB SaaS初期フェーズにおける適切なターゲット設定とターゲット理解」の基本的な考え方をまとめていきます。

前提:大きな市場課題を捉え、そして、狭く深く始める

冒頭の「誰の何の課題を解決するか?」の問いには、事業ミッションとして中長期的に解決・成し遂げたいこと、初期フェーズにプロダクトを届ける対象と解決したいこと、という異なる2つの回答があるでしょう。この2つを切り分け、(前者では)大きな市場課題を捉え、(後者では)狭く深く始める。これがまず前提となる重要なポイントです。

事業ミッションは、大きな課題を捉えるべきです。そのために、解決したい負は果たして本当に大きいのか、今後起こりうる大きな市場の変化は何か、徹底的に考え抜くことが重要です。

一方で、初期フェーズでの展開は、「狭く深く始める」ことが、事業の立ち上げの鍵です。BtoB SaaSにおいて初期フェーズでは、ターゲットを具体的に絞り込み、限られた領域のユーザーを深く理解し熱狂させることが最重要な一歩となります。事業ミッションから引きずられて、初期展開も広くターゲットしてしまうと、プロダクトも十分に尖らず、遠回りとなります。

このような考え方は起業に関する書籍やアドバイスを通じて認識されている経営者も多いかと思います。しかしながら、これらを知識として頭に入れているにも関わらず、プロダクトローンチ後に当初想定ユーザーに刺さり切らず、ターゲットの再考を迫られる事例は後を絶ちません。

「狭く深く始める」はベターではなく、マストなのです。

以下では、実際の「狭く深く始める」ためのアクションについて解説を行っていきます。

捉え切れる限定的な顧客を、徹底的に理解する

初期は、適切なターゲット顧客への絞り込みと徹底した顧客理解が肝心です。具体的に2つのステップがあります。

◆ピンポイントなターゲットを見定める
様々な条件によって、企業をセグメンテーションし、ターゲット企業を具体的にリストアップする

◆徹底した顧客理解と課題把握によって訴求を尖らせる
詳細なターゲットのペルソナを作成する

このステップは、的を見定め、射貫くための準備です。この準備として、顧客になりうる企業の分類や、顧客の課題・ニーズの把握は、多くのスタートアップで実施されています。一方で、事業仮説の精度を上げるためには、ピンポイントなターゲティング、徹底した顧客理解と課題把握が重要です。次章から、そのやり方について整理します。

セグメンテーションによる具体的なターゲティング

まずは、ターゲティングに向けて、セグメンテーションのための細かな条件を抽出し、条件に当てはまる企業をバイネームで上げることが肝心です。細かな条件出しを行うために、企業属性と企業の状況を把握しましょう。属性は企業規模/業界・バリューチェーンなど、一般的な条件を指しますが、企業の状況(企業を取り巻く環境)まで把握することで、適切なターゲティングを可能とする細かな条件が浮き彫りになります。

また、こうしたターゲティングの過程で、企業の課題・ニーズが段々と浮かび上がってきます。ここで、その課題・ニーズをよりはっきり捉えるために、併せてターゲット企業の課題・ニーズを具体的に抽出し、言語化しましょう。

上記におさえるべき条件項目を例示しました。最終的にはバイネームで上げられるターゲット企業が100社以下になるように、条件を出すことを目指しましょう。

なお、ターゲティングにて、状況把握が不十分な場合がよくあります。例えば「○○業界のエンタープライズ、従業員数1000人以上」という属性把握だけでは数百社以上出てきてしまい、その企業を捉え切れません。どのような市場/競争環境・ポジショニングにあるのか、状況把握をすることで、真にプロダクトの価値が届く企業が見えてきます。

以下は、私が携わったSPEEDAの海外事業(中国事業)でのターゲットの条件です。細かく条件を出したことで、まずはターゲットが明確になり、具体的な打ち手を思考できました。また対象企業のニーズを捉え、すぐにマーケティングのコンテンツ企画や営業資料・ピッチにて大きく改善できました。

営業・CSなど、顧客に日々触れているメンバーと一緒にこの作業を行うと、実例を基に、複数の観点から精査できます。細かな条件にてバイネームでのリストアップを実施してみてください。

ペルソナ作成、応えるべき7つの質問

次に、顧客解像度を上げるために、ユーザーペルソナを作成しましょう。前章ではターゲット企業を抽出しましたが、企業のニーズを捉えても、現場ユーザーの役割・業務・ペインポイントを理解しないと、細部までユーザー目線でこだわったプロダクトは創れません。また、企業という組織から更に、ユーザーという個人まで理解することで、マーケティング、セールス、CSというユーザーと相対するシーンでの訴求力も大きく向上します。

ペルソナを作成するために、応えるべき7つの質問があります。この一つ一つの質問を回収することで、ペルソナが描かれ、ユーザー理解が深まります。

例えばSPEEDA中国事業においては、意思決定者は「経営・事業企画の部長、着任2-5年の日本人駐在員」、ユーザーは「同部署の主任・リーダー、中国人ローカルメンバー」と定め、それぞれに対するアプローチを変えました。マーケティング・セールスが意思決定層にフォーカスし、日本人駐在員を狙い撃ちしたイベントを企画。CSはユーザーにフォーカスして導入前のトライアル時からヒアリング/説明会を実施し、日常業務の代替を狙った活動を行いました。それぞれの当事者を理解することで、短期的には提案の質や幅が向上し、長期的にはプロダクト改善要望に加え機能開発の企画へとつながりました。

顧客の理解が深まると、様々な場面でより良い訴求方法が見えてきます。またメンバー間で共通認識を持ち、言語化することができるため、手戻りが少なく、円滑なコミュニケーション・アクションが実現できます。是非、上記の7つの質問からペルソナを作成してみてください。


スタートアップにとって、初期の市場展開は当初の想定と異なることが多発し、最も試行錯誤が生じるタイミングです。

私も、過去にUzabaseのSPEEDAの海外展開にて、ターゲットが不明瞭な中でチャレンジし、成長が停滞する経験をしました。その際には、記事中のフレームワークを用いてターゲティング設定に注力し、再び成長を見出すことができました。

日々面談するスタートアップでも、ターゲットリスト・ペルソナが完璧であることは多くありません。捉え切れる限定的な顧客を徹底的に理解し、魅了すること、それを積み重ねていくことが勝ち筋となります。是非本稿をお読みいただいた方々は、実践してみてください。

本稿が、アーリーステージの起業家の方々の適切なターゲティング、更にはその後の立ち上げに、僅かばかりでも寄与できれば幸甚です。


執筆:大鹿 琢也 | UB Ventures プリンシパル
編集:早船 明夫 | UB Ventures チーフ・アナリスト
2022.03.29